奈穂美の場合 | プライベートに実験室

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誰も見ていなくても、僕はこっそりここに居ます。

嘘800の妄想がいつか完成すればいいな。。。

ブログネタ:婚約指輪は給料の3か月分? 参加中



「結局指輪は無かったわね」
 そう言って奈穂美はふわっと微笑んだ。

 新婚だからと言って何もかもを新しく出来るはずも無く、2人は支え合ってもまだかつかつな生活をスタートさせた。式や旅行なんて将来の夢、取り敢えずは目の前に積み重なる日常の細かい事のために稼がなければならない。せめて指輪くらい何とかするよ、と彼が言ってくれた時も奈穂美は曖昧な表情で無理はしないでねと言うのがやっとだった。気持ちは嬉しいけれど借金しないで暮らすだけで精一杯な家計に貯金するだけの余裕が無いのは奈穂美が一番分っていたから。そんなの後で余裕ができてからでもいいし何より彼の妻として触れあえるほどに側で暮らせるだけでも忙しいながら幸せで一杯。
「だけど貰っておけば良かったかな」
 大根と蕪を出汁だけで煮込みながら声だけは穏やかに明るい。しかし細い肩は背中から見るといかにも寂し気に見える。
「まさか俺と2人で暮らすようになるなんてこれっぽっちも考えてなかったろ」
「……そうね」
 今ではすっかりエプロンの似合う主婦だがその頃の奈穂美は、肩書きこそ無いものの頼りにされる働く女性だった。結婚退職しようものなら食べて行く事すら出来なくなると言うほどに、天涯孤独と言うやつは容赦ない。すっかり薄くなった腕の火傷の痕はその頃のものだそうで、それでも会社は休めなかったとは聞き飽きるほどおなじみの昔語りだ。
「本気の恋愛してたんだよなぁ、奈穂美は」
「こら、生意気。お母さんと呼びなさい」


「小遣い程度の指輪すら買ってもらえずにお父さんは逝っちゃったけれど、孝行息子のお陰で私は幸せよ。ところで可愛いお嫁さんはいつ来てくれるの」




先にしなきゃならない事はどうした;







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