儀式 | プライベートに実験室

プライベートに実験室

誰も見ていなくても、僕はこっそりここに居ます。

嘘800の妄想がいつか完成すればいいな。。。

ブログネタ:一度だけ魔法が使えたら 参加中


 皺すら気にせず制服の足を投げ出して座った。乱暴にまさぐったポケットから未成年には禁止されている煙草。慣れない手付きでジッポーの蓋を鳴らすとそこが灯りの無い部屋を強調する。たっぷり吸い込んだ煙に馴染んでいる訳ではないけれど噎せ返るほどでもない。手近な空き缶を灰皿代わりに吸い始め10日目にしてもう格好がついてる自分をどうにも情けなく思う。
 切っ掛けは、多分寂しさだった。
 離婚して戻って来た姉さん。引っ越しと同時に一緒に連れて来られた猫が、死んだ。飼い主本人はあっけにとられるほどサバサバと受け入れたが、俺は違った。次の恋に向けて禁煙よという宣言通りに一切手を付けられなくなったバージニア・スリム・デュオ・メンソールをくすねてこの有様だ。
 たかが猫。外をうろつけば何処にでもいる。人の暮らしを上手く利用してしたたかにしなやかに生きている小さな肉食獣。ありふれ過ぎて気にもかけなかった沢山のうちのたった一匹だ。姉さんが呼んでいたその名前さえ実は覚えていない。特別可愛がっていたとかそう言うのじゃない。猫の方も俺に懐く素振りは見せなかった。たまに食いかけの間食をねだって甘い鳴き声を聞かされた、それだけ。それだけのはずなのに何やってンだよ俺は。

 それでも。悲しめるだけ俺は幸せなのかも知れない。捕らえられて保健所送りにされる危険をやり過ごして生きている野良たちをわざわざ蹴り上げたりする連中とは違うのだ、と改めて思えたから。そいつらとはもうまるで考えが違うのだと気付いて決心する事が……できそうだから。

 火の消えた煙草をねじ込んで空き缶をゴミ箱へ放り捨てた。もうこれは必要ないと、封を切ったばかりの細い箱も一緒に。これは魔法。漂う煙を払い除けるのと同じ、気になっていたのに考えようとせず放置していたもやもやを振り切るための儀式だ。猫の向こうに見えて来たあいつの手を、今度こそ掴んでやらなければならない。次の虐めの標的になるかもしれないという迷いも恐さも、俺は肺を壊す葉っぱとともにここへ全部置いて行く。

 そして、俺は魔法にかかる。









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